平成30年の門前掲示


平成30年12月の門前掲示


 「起きたことは全て正しい」

 本年(平成30年)8月に俳優の津川雅彦氏が亡くなりました。
 その追悼番組のなかで娘の真由子さんが、津川氏から「起きたことは全て正しいと思って前を向いて進め。偶然はない、必然なんだ」と教えられた、というエピソードを明かしました。

 仏教では因果を説きます。起こった結果には必ず原因があります。実際に起こった事は、まさに因果の「正解」が発生したという事になります。
 また起こっていないことを心配する事も意味がありません。因果が正しくないから起こっていない、またはまだ機が熟していないから起こっていないという事なのです。





平成30年11月の門前掲示


 「腹が立ったら拝むがよい」

 お坊さんが正式に住職になる式「晋山式」が、私の先輩のお寺さんで行われるのですが、私はその式で「法要解説」(司会)をするように頼まれました。
 司会の原稿は、以前同じ式で司会をしたことがある方に頼んで、原稿をお借りして、付け足したり削ったりして使用します。

 その晋山式の原稿の中に、「腹が立ったら拝むが良い」がありました。永平寺74世佐藤泰舜禅師の言葉です。
 原稿には次のように書かれていました。

「永平寺 佐藤泰舜禅師さまは礼拜の功徳として、次のように教えられております。
 手を合わせ無心に拝むとき、人は皆、
 まず第一に無我謙遜の心になります。
 第二に心が清らかに澄み切ってまいります。
 第三には心が引き締まってまいります。
 第四には心が広々としてまいります。
 オレがオレがという我見我欲は真心を込めて拝む時には出てきません。腹が立ったら拝むが良い、恨みの心が起きたら拝むが良い。心が自然に落ち着いて我見我欲の角が取れるのでございます。佐藤禅師さまはこのようにおさとしになっておられました。」

 私たちも、腹がったり、恨みの心が起きたら、真心をこめて手を合わせたいものです。

DIAMOND online で解説をいただきました。
https://diamond.jp/articles/-/212823






平成30年10月の門前掲示


 「幸福になりたいのだったら、人を喜ばすことを勉強したまえ」

 イギリスの詩人、M・プリオールの言葉です。

 この言葉を聞いて、「他人の不幸は蜜の味」。他人の幸せのために苦労する事が自分の幸せにつながるものか、と考える方もいるかもしれません。確かに他人の幸せがそのまま自分の幸せとはなんだか矛盾のようにも思えます。しかし人の不幸を見て自分の幸せを感じるなんて悪趣味です。それにそれは本当の幸せとはいえません。

 定年を迎え、夢だった旅行をたくさんしたのだが、全く楽しくない。その後ボランティアに参加し、人の役に立つ活動をしたところ、それに生きがいを感じるようになった、という話を聞いたことがあります。自分がやったことで他人が喜んでくれる姿を見ることは、気持ちの良いものです。

 幸せは、自分のためにやりたい事をしている時ではなく、実は自分はさておき人のために役に立つ事をしている時こそ得られるものなのだと思います。

 みなさんも是非、どんな事でも、人が喜ぶような事をしてみましょう。

 仏教ではこれを「布施行」といいます。





平成30年9月の門前掲示


 「なければないで苦しみ あればあるで苦しむ」


 「無量寿経」に
「有田憂田 有宅憂宅 無田亦憂 欲有田 無宅亦憂 欲有宅」
(田があれば田の心配をし 家があれば家の心配をし 田がなければ、田があればと思い悩み 家がなければ、家があればと思い悩む)
とあります。
 またニカ−ヤ(阿含経)という経典に
「息子を持つものは、息子のことで思い悩み
牛を持つものは、牛のことで思い悩む
人は自分が執着しているもののことで思い悩む
実に、執着のない人は思い悩むことがない」
とあります。

 道元禅師は、「放てば手に満てり」と教えています。しっかりと握っているうちは、握ったものだけが自分のものですが、手を開いてその握りしめたものを放ち開いたとき、その手には全世界が乗ることになります。執着を捨てたときに、真に満ち足りた心を得ることができるのです。





平成30年8月の門前掲示


 「人の悪口は絶対に口にするな」


石原裕次郎さんがポリシーとしていた言葉だそうです。
「人にしてあげたことはすぐ忘れろ、人にして貰ったことは生涯(一生)忘れるな」と続きます。
この言葉は、平成24年に紹介した、
「かけた恩は水に流せ 受けた恩は石に刻め」に通じますね。

 仏教に「不自讃毀他戒(ふじさんきたかい)」という戒があります。自分の自慢をしたり、他人の悪口を言いふらすなどしてはいけないということです。

 石原裕次郎さんは、生前からたいへんな人気があり、亡くなった後、今でもなお多くの方から慕われる傑出の人物です。
 このようなポリシーがあったからこその石原裕次郎だったのでしょうね。

DIAMOND online で解説をいただきました。
https://diamond.jp/articles/-/181924

新潮社「お寺の掲示板」に掲載されました
https://www.amazon.co.jp/dp/4103528710






平成30年7月の門前掲示


 「みんなにさわがれて、えらくなったように思ってはいけないよ」


「ムーミン」から。スナフキンの言葉です。
 地位や年齢や立場などで、周りからチヤホヤされて、いばっている人をみかけます。みんなに騒がれ、エラくなった気持ちになって威張ったり舞い上がったりしてはいけません。「オレが白と言ったらカラスも白だ」なんてね。周囲にチヤホヤされることで、物事の本質を見失い、正しいものが正しく見えなくなってしまうことがあります。気をつけましょう。チヤホヤされている時こそ、周囲にまどわされず、常に謙虚な気持ちで。



平成30年6月の門前掲示


 「約束しておいて 守らないのは はずかしい
 「かして」といって かえさない自分はいやらしい」


以下は曹洞宗報3月号付録「てらスクール」より

お金をかりたら、かえしなさい

 ある人が良寛さんに、
「お金もちになるための 心がまえを教えてください」
 と聞きました。

 すると良寛さんは、
 「お金をかりたら、かえしなさい」
 と答えました。

 かりたものを きちんとかえすということは、
 親切にこたえて 信頼をうらぎらない ということです。

 良寛さんは、いつも自分をふりかえり、

 約束しておいて 守らないのは はずかしい
 「かして」といって かえさない自分はいやらしい

 とメモをしていました。

 かりたものを ちゃんとかえすことは、とても大切なことです。
 その誠実さがあるからこそ、人に信頼されるのです。

 それが、お金もちの土台になるのですよ。
 良寛さんは伝えたかったのは、そういうことなのですね。

                   (文 中野東禅)

 ここでは「お金持ちになるための心構え」として信頼や誠実さが説明されていますが、どんな事においても信頼や誠実さは大切です。
 決められたこと、やるべきことをきちんと行いたいものです。



平成30年5月の門前掲示


 「他の人との競争よりも、自分に克つことが大事」


「自分に負けない」「自分にかつ」って何だろう?
 お釈迦さまの言葉(ダンマパダ)に「自分に打ち克つことは、他の人々に勝つことよりもすぐれている」とあります。

 「自分に克つ」とは、友達と勉強やかけっこなどで競争し勝ち負けを決めることとは違います。自分の心にある「遊びたい」「面倒くさい」「やりたくない」という気持ちに負けない事です。
 誘惑に負けず、自分の中にある、弱い気持ちに克つことはとても大事な事だと思います。



平成30年4月の門前掲示


 「今度は君が舵をとれよ」


 「ムーミン」からスナフキンの言葉です。

 スナフキンは、ヨットにかっこよく乗ることに憧れてはいるが本当はヨットに乗るのがこわいヘムレンさんをさそってヨットに乗ります。
 そして、“死んだ方がまし”なくらい気持ちが悪くなっているヘムレンさんに
「さあ こんどはきみがかじをとれよ」とスナフキンが言います。
 「だめだよ だめ、だめっ」とかすれ声をだし、びくびくしどおしのヘムレンさんにスナフキンは「きみがかじをとるんだよ」と繰り返します。

 (ヘムレンさんは、人に指示をしていばる性格なのですが、実はこのように人任せで気弱な性格であることがここでわかります)

 その後スナフキンは死にそうなヘムレンさんをほったらかし、へさきにこしかけながらただじっと水平線をながめてるだけ。

 でも、それでヘムレンさんはヨットを動かせるようになりました。

 4月になり、新しい生活をはじめる人もいるでしょう。
 また異動で、新しい仕事をする人もいるでしょう。これからははあなた自身があなた自身の舵をとるのです。常にじぶんの運転手はじぶんなのです。



平成30年3月の門前掲示


「今やれることを 一生懸命がんばろう」


 お釈迦さまの言葉に「過去を追ってはならない。未来を期待してはならない。およそ過ぎ去ったものは捨てられたもの。未来はいまだ至らず。今日、まさになすべきことを熱心になせ」(一夜賢善経)とあります。

 私たちの人生は常に「今」の連続です。一秒先だってどうなるかわかりません。どうなるかわからない未来のことをいたずらに気にかけ、要らぬ心配ばかりして過ごす事は無意味です。また一秒前も過去です。もう取り戻すことは不可能です。ですから過去についていつまでもクヨクヨすることも無意味です。
 今の瞬間、今の機会をおろそかにしていては、明るい未来が開けるはずもありません。過去にも現在にも未来にもとらわれず、その時その場でするべきことに自分の全力を尽くしていきたいものです。



平成30年2月の門前掲示


「まわりの人が、やってもやらなくても じぶんのやるべきことを ちゃんとやろう。」


 「ダンマバダ(ブッダの真理の言葉)」に、「他人の過失を見るなかれ。他人のしたこととしなかったことを見るな。ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ」とあります。
 他の人がやっていないからといって、あなたがやらなくても良いという事にはなりません。約束や決めたこと決まったことについて、あなた自身は納得がいかない事もあるかもしれません。でもやるべき事はきちんと行いましょう。きちんと行うことは、周囲の信用を得ることになり、結果として自分のためにもなります。それにイヤな事でもやるべき事をきちんとやればすっきりします。



平成30年1月の門前掲示


「凧を飛ばしているのは、追い風ではなく向かい風だ。 しかも、縛りつける糸があるから、より高く舞い上がるのだ。」


 昔のこどもたちは、お正月には凧を上げて遊んだものですが、最近はそのような様子を見かけなくなりました。
 今月の言葉は作家、中谷彰宏氏の言葉です。「面接の達人」の著者です。
 凧は逆風を受け、また糸で引っ張るから高く上がって行きます。逆境や縛り付けこそが、自分が高く上がるチャンスと思えるようになりたいものです。
 私もこの1年、逆風があっても縛り付けがあっても、高く上がるものと思ってがんばっていきたいと思います。



戻る